避妊・去勢手術をした方が
よいかどうか
~獣医学的側面から~
甲東動物病院 尾添雅文
一昔前、犬を飼うといえば屋外飼育が当たり前で近所には野良犬もいたために、結果として飼い主が望まない犬の妊娠の機会が数多くありました。そのために我々獣医師は、望まない妊娠の予防を目的とした避妊・去勢手術を推奨してきました。
しかし、現在都市部においては屋内飼育が主流となり、野良犬も激減していることから、望まない妊娠の機会が減少しているため、「子供を作らせない」という目的のみで手術する方は少なくなっています。
近年では、繁殖させない目的以外にも病気の予防効果やストレスの軽減、問題行動の抑制といった避妊・去勢手術の有用性が報告されています。これらの観点も含めて、繁殖の予定のない犬には避妊・去勢手術をお勧めしています。
以下に避妊・去勢手術の利点と問題点を挙げましたので、愛犬に避妊・去勢手術を判断する際の参考にして頂けると幸いです。
飼い主様がどのような利点に期待して避妊・去勢手術を行うのか、その目的はお家によって様々です。
ただ「とにかく避妊手術をしましょう」ではなくて、「どうして避妊・去勢手術をするのか?」その目的を明確にすることが重要です。
雌犬の場合(避妊手術)
雄犬の場合(去勢手術)
手術の問題点
01感情的、倫理的問題
健康な犬に手術を受けさせることについてなかなか決定できない方もいらっしゃいます。
この感情は犬を愛するが故の当然の感情です。
この大切なお気持ちを整理しないまま手術を決定しないよう心がけてください。家族の間で意見を一致させていただくことも重要です。
02全身麻酔のリスク
我々獣医師は、麻酔時の予期し得ない事態に対処できるように細心の注意を払いますが、それでも麻酔の安全を100%保証する事はできません。信頼できる獣医師に手術を依頼することはとても大切です。
03費用がかかる
手術費用は施設によって異なりますので、手術をする前に獣医師にご相談して下さい。
04太ることがある
活動性、基礎代謝カロリー量の低下などによって体重が増えることがあります。
避妊・去勢手術後に過剰に太らないように食事や運動について注意していただく必要があるかもしれません。
05問題行動予防の確実性
現在も獣医学的な検討が継続して行われていますが、避妊・去勢手術をするだけで全ての問題行動を予防・解決できる訳ではありません。
避妊手術はしつけのかわりにはなりませんが、訓練・しつけなどを行う際に安定した効果を得るために避妊・去勢手術を検討してみても良いでしょう。